研究代表者からのご挨拶
「統合レジストリによる多発性筋炎/皮膚筋炎関連間質性肺疾患の個別化医療基盤の構築」の研究代表者をつとめております、日本医科大学付属病院/強皮症・筋炎先進医療センターの桑名正隆です。当ホームページをご覧いただき、誠に有難うございます。
多発性筋炎/皮膚筋炎(以下、筋炎)は、筋肉に加えて皮膚、関節、心臓、肺など全身諸臓器に炎症をきたす自己免疫疾患で、国より指定されている難病です。本疾患の生命予後に大きく影響を及ぼす臓器障害は間質性肺疾患です。例えば、抗メラノーマ分化関連遺伝子5(MDA5)抗体陽性例では、発症6ヶ月以内に約30%の症例が呼吸不全で命を落としています。また、抗アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)抗体陽性例では、当初は治療により改善しますが、再燃を繰り返し、10年から15年かけて生存率は50%程度まで低下します。このような難治性病態の予後改善のためには、適切なタイミングで、最善の治療を行うことが大切です。しかし、筋炎に併発する間質性肺疾患の病状は、個々の症例で多様性に富み、治療の反応性や予後を予測することは難しいのが現状です。また、筋炎は稀少疾患かつ予後不良なことから、ランダム化比較試験の実施が困難で、治療法に関するエビデンスが確立されておりません。このように、筋炎に伴う間質性肺疾患の診療を行う上で、数多くの問題が山積みとなっています。
私たちは、筋炎に伴う間質性肺疾患の予後改善を目指して、2014年にレジストリ(The Multicenter Retrospective Cohort of Japanese Patients with Myositis-Associated ILD [JAMI])を立ち上げ、全国44施設の先生方のご協力のもとで499例を登録し、予後予測モデル、発症と関連する環境要因、治療法の効果比較など多くの成果を報告してきました。これら成果は、日本呼吸器学会と日本リウマチ学会が共同で2020年に策定した「膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針」や、厚生労働省難治性疾患克服研究事業の自己免疫疾患に関する調査研究班で現在作成中の診療ガイドラインに反映されています。しかし、同時に、本疾患における未解決の数多くのクリニカルクエスチョンの存在が浮き彫りとなり、今後、診療に役立つ、より質の高いガイドラインの改定をはかる上で、さらなるエビデンスの構築が求められています。
今回、このような背景に基づき、日本医療研究開発機構(AMED)の支援のもと、JAMIレジストリをさらに発展させ、より質の高い大規模データベースを、肺画像(コンピューター断層撮影による)および血清のレポジトリと合わせて構築することを立案しました。本レジストリはご参加いただいた施設の先生方の共有財産として、新しい疾患分類法やアウトカム評価法の開発、予後予測・治療法推奨に関する人工知能システムの開発、臨床試験での対照群として応用基盤となるデータ構築など診療に役立つ有用なエビデンス創出を行うことを目指します。また、本レジストリを通じて、発症予防や新規治療法の開発に向けた取り組みとして、本疾患の病因の追求や病態の解明も目指していきます。
本レジストリは、国内のエキスパートである膠原病内科医、呼吸器内科医、皮膚科医による多くの専門施設が参加している点が強みであり、all-Japanで創出した日本発の質の高いエビデンスは、将来の適正医療の普及、そして、本疾患を抱えている患者さんの身体機能・生命予後の改善をもたらし、本領域での診療の質の向上に必ずや貢献できるものと考えております。皆様からのご指導・ご支援のほど、宜しくお願い致します。
日本医科大学大学医学研究科 アレルギー膠原病内科学分野 教授
日本医科大学付属病院 リウマチ・膠原病内科 部長
日本医科大学付属病院 強皮症・筋炎先進医療センター センター長
桑名 正隆